私たちの声

学問の自由の危機――日本版キャンセルカルチャーを許してはならない

森田成也

 私は2021年の10月に『現代思想』編集部に対して以下の抗議文を送ったが、まったく何の返信もなく、なしのつぶてだった。しばらくして、改めて私の抗議文についてどうなっているか尋ねるメールを編集部に送ったが、それに対してもまったく何の返信もなかった。『現代思想』のような権威ある大手雑誌にあるまじき、まったく社会的常識を欠いた対応だったと言うべきだろう。この抗議文を出してからすでに3ヵ月以上経ったこともあり、また、問題となった千田有紀さんの論文もネット上で公開されたことを受けて、この場を借りて、私の抗議文を公開させていただく。


『現代思想』2021年11月号(特集=ルッキズムを考える)において、高島鈴氏の「都市の骨を拾え」という論稿が掲載されている。その論稿を読んだところ、冒頭でいきなり、『現代思想』2020年3月号掲載の千田有紀氏の論稿「『女』の境界線を引き直す」に対する一方的な攻撃が展開されている。これは実に異常なことである。

1,まずもって、この冒頭の一句と本文とのあいだには何の関係もなく、本文ではただの一度も千田氏の論考にも、千田氏の名前にも触れられていないだけでなく、千田氏が問題にしたトランス問題にさえ触れられていない。にもかかわらず、冒頭でこのような、他の執筆者への攻撃的文言を載せるというのは、前代未聞のことであり、論文執筆の最低限のルールにも、執筆者間の最低限の敬意にも反することである。このような冒頭文の掲載を許した編集部の責任は重大である。

2,その冒頭文において高島氏は、何の根拠も示すことなく、千田氏の論考が「トランス女性に対する排除を助長し」と断定している。これこそ許しがたい誹謗中傷ではないか。千田氏の論考はまったくもって、トランス女性の排除を助長するものではない。それは誰が読んでもわかることだ。それどころか、トランス女性の権利と女性の権利とをどのように両立させるべきかを真摯に模索している。このような一方的で根拠のない暴力的断定を編集部はなぜ許したのか? 編集部も誹謗中傷に加担したと言われても反論できないだろう。

3,高島氏はさらに、千田氏の論考を掲載した『現代思想』編集部の責任をも追及しており、それが、インターネット上のトランス排除言説やトランスの存在そのものを否定する(その根拠も何も示されていない)ことに加担するものだと決めつけている。そして、その決めつけに基づいて、編集部に対して責任を認めるステイトメントを出し、再発防止に努めろと要求している。これほど言語道断な主張があるだろうか? 学問の世界において意見はさまざまでありうる。それらを平等に戦わせるのが学術誌の存在意義である。ところが、あろうことか高島氏は、自分が正しいと考える意見と違う見解が掲載されたからといって、それを掲載した雑誌編集部に対して謝罪のステイトメントを出せとか、再発防止に努める(つまり、同じような論文は今後いっさい載せるな)と要求しているのである。学問の自由を否定し、学術誌の存在意義そのものを否定する暴挙と言わざるを得ない。

4,海外ではすでに、トランス問題をめぐって、一部のトランス活動家やそれに組する知識人たちが、自分たちの意見に反するあらゆる言説や知識人を大学やメディア、学会誌などから排除しようとして攻撃的なキャンペーンを精力的に展開している。これを「キャンセルカルチャー」と呼ぶが、欧米ではすでに多くの研究者がこのキャンペーンの犠牲となっており、さらにトランス活動家たちからネットなどでレイプや殺人を含む脅迫さえ受けている。たとえば、編集部もご存じであろうフェミニスト歴史学者のセリーナ・トッド(日本語訳の著作としては『ザ・ピープル――イギリス労働者階級の盛衰』がある)はトランス活動家から執拗に脅迫されて、一時、警察の護衛付つきでないと大学に行けなくなった。もっとも最近では、フェミニスト哲学者のキャスリーン・ストックが同じ目に遭っている。トランス活動家の暴力性は世界的に有名であり、学問の自由を終わらせ、新しい中世をつくり出そうと世界中で躍起になっている。日本でその最初の犠牲者となったのが、千田有紀氏である。彼女は、トランス問題に関して、最も先鋭な活動家の意見に異論を唱えただけで、TERF(トランス問題に異論を持つすべてのフェミニストに貼られた侮蔑的レッテル)と呼ばれ、差別主義者、トランスフォーブとののしられた。トランス活動家は千田氏の学者生命を抹殺するまでその手を緩めないだろう。『現代思想』編集部はそのような犯罪的行為に加担するつもりなのか?

5,以上の点にもとづいて、私は、高島氏の文章を掲載した『現代思想』編集部に対して断固抗議をするとともに、氏による暴力的要求にけっして屈せず、学問の自由と自律性を断固として守るよう求める。歴史に恥じる行動をとってはならない。

2021年10月28日

森田成也(大学非常勤講師、マルクス経済学)

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